5月1日、そう銘打たれた興業でHaiはプロデビューを果たしました。
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2015年初め、ベトナムはホーチミンに『サムライボクシングジム』がオープンしました。
そのとき、僕が掲げた最初の2つの目標。
・まだプロ組織がないこのベトナムでプロの興業を開催すること
・プロを夢見るベトナム人ボクサーを日本でプロデビューさせること
1つめは苦労しながらも多くのかたのサポートで何とか達成(詳しくは過去ブログにて)
そしてもう一つの目標
日本でベトナム人プロデビュー。
これはどうしても出逢いや縁、タイミングが絡んでくるのでそう簡単にはいかないだろうと覚悟はしてました。
そんななかホーチミントップチームの練習を見学に行ったとき
運命の出逢いでした。
正直、能力やセンスは他に抜けた選手がたくさんいます。
そのなかで一人、Haiのボクシングに対する真っ直ぐな気持ちが僕の目を引きました。
力みすぎの体で、ジャブの打ち方も使い方も滅茶苦茶で。
でも彼の目からは、
彼の拳からは、
強くなりたい!
そういう気持ちが伝わってきました。
話を聞くと、去年は全国大会の序盤で敗けたと。
そして、今年こそは絶対に一番になると。
「時々でいいからサムライジムに来なよ、勝ち方を教えてあげるよ」
それから彼は毎日サムライジムに顔を出すようになりました。
教えることはシンプルなことだけ。
簡単な基本だけ。
でも、夢を持った選手はスポンジのように吸収していく。そして、一番の武器である「自信」を手に入れることになる。
その年、彼は64㎏級のベトナム王者となりました。
2016年末、彼にチャンスが生まれる。
「日本の興業でベトナム人をプロデビューさせよう」との話が。
当然、彼に迷いはなく即答で。
ベトナムの大事な試合を全て蹴ってでも日本のスケジュールに合わせると。
そこから、二人三脚でのトレーニングが始まりました。
プロボクサーになるとはどういうことか?
勝負の世界で生きる覚悟とは?
そこを理解させることが最も大切な一歩と思ってました。
でも彼にはあまり必要なかったかな?
もうすでにプロボクサーになりつつありましたね。
具体的な日程も決まり、対戦相手も決定しました。
映像も手に入りました。
僕は現役時から相手の映像は一切見ません。
先入観が一番やっかいですから。
チェックするのは名前、身長、キャリアだけですかね。
あと年齢ね。これでスタイルがわかったりするし。
Haiは逆に何度でも繰り返し観て研究するタイプ。これが普通なのかな?
今回の相手は身長が高い選手。
Haiもそこそこですが、それよりも高い選手。
トレーナーの僕としては辛いところ。
かなり肩に負担かかるんですよね。
僕、背低いので。
背低いので...
背低いので...
まぁ大事なのは自分のボクシングをすること。
高身長の相手に対するセオリー、それを自分のスタイルに適応させるトレーニング。
意見が合わずぶつかることも多々ありましたが、
そこはお互いが納得するゴールをひたすら探す作業。
ちょっと時間はかかりましたが、何とか完成。
あとは体重の調整とコンディションを崩さないことだけ。
今回、ベトナムの多くのかたにサポートをしていただきました。
Ferdinand様には試合時のトランクスを提供していただきました。
これにはHaiもモチベーションアップ!
マンガのキャラクターが恥ずかしい?
僕は「はじめの一歩」とコラボできるなんて羨ましくて悔しいですけどね。
他にも、
「大和軽合金工業」様にもスポンサー協賛していただきました。
日本でもいくつかスポンサー企業様がつきました。
デビュー戦でこれだけたくさんの方にサポートしてもらえることがどれだけ有り難いことかHaiくんわかってるのかな?
ジムでもたくさんの会員さんが「頑張れ!」との声をかけてくれました。
本当にありがとうございます。
心強いです!
4月29日、朝4:30
眠い目をこすりながら旅立つ彼を見送ってきました。
空港でも緊張感なくリラックスしてたので少し安心。
あとは日本からの連絡を待つだけ。
計量は1㎏以上アンダーしたとか。
さすがの彼も緊張してるのかな?
計量後は川崎新田ジムの選手たちと食事。
後楽園飯店なんて贅沢ですね。
試合当日、
ウォーミングアップも順調に進んだみたいです。
ただ、靴下ダサいね。
たくさんの観客のなか試合開始。
ここからは映像で、
Hai試合映像 ←クリックで見れます
ベトナムにいる僕は映像で見たのですが、
正直、1Rで見るのをやめました。
最悪のスタイルです。
練習してきたことが全部吹っ飛んでる。
何をそんなに焦ってるんだろう。
何がそんなに彼を興奮させるんだろう。
そばにいたい。
隣で伝えたい。
2年間一緒にやってきたので、言葉が通じなくても伝えられる。
簡単な単語、アクションで伝えられる。
彼を正しい闘い方に戻せる...
もどかしいですね。
現役の時、僕が不甲斐ない試合をしていると孫トレーナーがリングサイドで叫ぶ声が響きます。
観客の雑音は一切聞こえないのに、孫トレーナーの声は真っ直に耳に届きます。
叫んでるので何言ってるかわかりませんが、その声を聞くと、辛い練習や一緒に乗り越えてきた練習が一瞬で頭に浮かび、我に返ることができました。
僕の声が彼にとってそんな存在になれるかわからないけど。
でも、
叫びたい。
叫んであげたい...
そんな感情が溢れだし1Rで見るのをやめました。
試合を観に行った人たちから結果を聞きました。
ドローだったそうです。
負けなかったんですね。
負けたと思ってました。
でも、勝ってないんです。
ボクシングは勝負の世界。
勝ち以外は全て無です。
負けもドローも結局は無です。
厳しい言い方ですが、彼の2年間の努力がわずか12分間で無駄となりました。
そういうリングに彼は立っています。アマチュアではなくプロボクサーとして。
でも、
試合後、たくさんの方が僕にFBやラインで送ってくれました。
遠く離れた異国の地で、彼はたくさんの人に応援してもらいました。
僕の本音を言えば、強いボクサーになるに越したことはないですが、それよりも皆に愛されるボクサーになってほしい。
「彼の試合なら応援したい!」
「彼が試合するなら絶対観に行く!」
そう言ってもらえるボクサーになってほしい。
そういう意味では、彼は日本のリングで大きなものを手に入れたのかもしれないですね。
プロボクシングは勝負の世界。
よく頑張ったとか、一生懸命努力したとか、そんなことはどうでもよくて。
結果が全ての世界です。
でも、
彼が帰ってきたら
言っちゃうんだろうなぁ...
よく頑張ったね。
また一緒に努力しよう
って。
今夜は、悔しくて情けなくてしょうがないけど
なんかいい夢みれそうです。